開発援助の現場から第3回 サウジアラビア:サウジ化政策とテロ防止
2003/12/01
下岡朋子(GLMi会員)
国際協力機構(JICA)の仕事で10月17日から1週間、サウジアラビアの首都リヤドに滞在した。初日、アバヤ(女性が身につける黒いガウン)を羽織り、事務所を訪ねて初めて気が付いた。サウジ人の現地職員が1人もいないのである。5人の「現地職員」は皆外国人労働者で、エジプト、インドの出身者だ。JICA事務所では「高くて使いにくい」サウジ人は雇っていない。サウジ人がいないためか、「事務所ではアバヤを脱いでも大丈夫ですよ」と邦人職員が声をかけてくれ、ほっとした。イスラム教の戒律が厳しいサウジアラビアでの任務は勝手が分からず、アバヤの裾から足首が見えたらどうしよう、と緊張していたのだ。政府の推進するサウダイゼーション(サウジ化政策)の余波はJICA事務所には未だ到達していないらしい。
民間では、一定のサウジ人の雇用が義務付けられている。スーパーのレジ係から外国人労働者が突然締め出され、長蛇の列の客を尻目にサウジ人がレジ操作を習う光景が見られた。2005年までに民間企業の労働者の30%をサウジ人に転換するそうだ。サウダイゼーションは人口の50%を占める18歳以下の若年層を吸収する雇用機会の創出を狙ったものだ。オイルドルの縮小したサウジでは、失業率は30%を超え貧富の差が拡大している。その一方で王族資本が経済を握る社会構造は変わらない。失業した一部の若者は閉塞感から過激な原理主義に走り、テロの温床が出来上がる。優秀な外国人労働者を締め出しサウジ人労働者の育成を進めたい裏には、こんな社会環境があったのだ。テロ防止のために(?)、JICA事務所もいずれサウジ人を雇うことになるのだろうか?