農業機械のマイクロ・レンタル事業(AMRLEDプロジェクト)3年次完了のご報告
2015/11/27
ジーエルエム・インスティチュート(GLMi)が2012年から公益財団法人日本国際協力財団の支援により、フィリピンのヌエバ・ビスカヤ州で実施している「
農機レンタルプロジェクト(ARMLED)」の3年次が、2015年3月をもって終了しました。3年次においてはサービスを拡大させ、より包括的に小規模稲作農民をサポートする体制を整備すべく、農機オペレーターや農民、ARMLED運営スタッフを対象とした能力強化研修も積極的に行いました。本項ではそのような3年次の様子についてお伝えいたします。
サービスの拡大
農機レンタルや低利子ローンなどのサービスを拡大させ、小規模稲作農民へのサポートをより強固なものにするよう努めました。結果、一年間で10村183名の農民がARMLEDのサービスを利用しました。
新たなサービスとしては、既存の耕耘機と脱穀機に加えて、農民からのニーズが大きかったパワー・ティラー(泥のぬかるみがひどい農地でも作業可能な耕耘機)を2台購入し、レンタルサービスを開始しました
パワー・ティラーのレンタルサービス
次に、可搬式精米機のレンタルサービスを導入し、42名の農民に提供しました。これまで現地では現金欲しさに湿った籾を収穫直後に販売する農民が多くいました。しかし、籾と精米したコメの売値を比べてみると、大きな差があります。そこで、ARMLEDの可搬式精米機のレンタルサービスを利用することにより、それまで籾を売っていた農民は、より高い値が付く精米後のコメを売り、収入を増やすことができるようになりました。
可搬式精米機のレンタルサービス
低利子ローンと作物保険も2年次から継続して提供しています。3年次は、249名に低利子ローンを提供、また8名の農家がARMLEDを通して作物保険に加入しました。
このように、3年次が完了した時点で、農機レンタル及び低利子ローン、保険のサービスをこれまでより多くの農民に提供することができました。また、精米したコメを「ARMLED Rice」という名でブランド米として販売開始し、生産から販売までより包括的なサービスが実現されようとしています。
研修実施による能力強化
農機オペレーターへの研修:
3年次には新たに対象村に住む44名をARMLED農機オペレーターとして認定し、これにより全村で合計96名のオペレーターが従事しています。この仕事により、彼らは一日300ペソ(日本円で約780円)ほどの収入を得ることができています。それまでは夜間に過酷で不安定な仕事をしていた人々がより安定したオペレーターの仕事に就くことができるなど、ARMLEDは地域の雇用創出に貢献しています。
また、3年次には農機オペレーターに対して、「農機の操縦方法習得」のみならず「保守管理」や「コミュニケーション・リーダーシップ」など、合計6回の研修を実施しました。200名近い農民の農機レンタルの注文に応えるには、ARMLEDスタッフそしてオペレーターたちのチームワークが欠かせません。特に、手間のかかる耕耘作業(1ヘクタールあたり約3日を要する)や、天候や収穫の進捗によってスケジュールが左右され、しかも一度に6~7名のオペレーターが必要となる脱穀作業においては、顧客農民・ARMLEDスタッフ・農機オペレーター間の円滑なコミュニケーションやコーディネーションが大変重要となります。そのため、これら能力強化研修を通じてレンタルサービスの質的向上を図っています。収穫期のレンタル注文の集中に伴うオペレーター不足や保守管理能力不足は引き続き課題ではありますが、今後もその克服に向けて定期的かつ継続的に研修を実施し取り組んでいく予定です。
農機オペレーターを対象とした耕耘機の操作方法研修(講義)
農機オペレーターを対象とした耕耘機の操作方法研修(実地訓練)
農機オペレーターを対象とした耕耘機の操作方法研修(認定証の授与)
小規模稲作農民への研修:
ARMLEDの農機レンタルを利用している顧客農民向けには、補足的サービスとして「稲作生産性向上のための研修」を実施し、各村から約30名が参加しました。参加者からは「生産性を上げるにはどのような種子や肥料を選べばいいのか」「稲作周期の合間にはどのように農地を活用すればよいのか」「最近『気候変動』や『異常気象』とよく聞くが、一体どんな現象なのか。自分たちはどう対応したらいいのか」等の多くの質問があがりました。それに対して公的機関や他のNGOからの講師が答えたり、参加者間で議論を行ったりしました。また、豊富な知識を持つ一部の農民が他の農民に知恵や情報を共有する場も設け、農民間の知識格差の是正を図りました。
顧客農民を対象とした稲作生産性向上のための研修
ARMLED運営スタッフへの研修:
農民だけでなく、ARMLEDスタッフも政府関係機関による「農業サービス・プロバイダー向け農機保守管理能力強化訓練」「農機保守管理技術訓練」やパートナーNGOによる「コミュニティ・ワーカーのための研修」に参加しました。その後、これら研修を受けたスタッフが講師となって、オペレーターへの同じ内容を伝える研修を行うなどしてその知識や技術を普及させました。このように、ARMLEDのフィリピン人スタッフが、自立してレンタル事業を運営していくための自己の能力強化とともに、より質の高いサービスを提供していくための努力を精力的に行っています。
ARMLEDスタッフを対象としたコミュニティ・ワーカーのための研修
4年次への展望
今後、ソーシャル・ビジネスとしてフィリピン人運営スタッフだけで自力でレンタル事業を持続させていくことがARMLEDにとって大きな挑戦となります。
そのためには、まず3年次に開始した可搬式精米機レンタルや「ARMLED Rice」の販売を軌道に乗せ、サービスをさらに拡充させていく必要があります。また、近年収穫に係る人手不足や不安定な天候のために、小規模農民間で非常にニーズの高いコンバイン・ハーベスターのレンタルサービスの導入も計画しています。隣接する村へのマーケティング活動や村役場、灌漑組合などとの連携を深めることにより、これらサービスをより多くの農民に利用してもらえるような活動を展開していきたいと思っています。
地域の労働力を活かした小規模農民の生計向上に貢献するプロジェクトとして、裨益者のニーズを汲み取り、それに応えられるよう、引き続き取り組んでいきます。
農機オペレーターを対象にしたコミュニケーション・リーダーシップ研修