2018/07/01
2017年3月より実施している「カジアド郡におけるコミュニティを基盤にした持続可能な初等教育戦略のための能力開発プロジェクト」は2018年3月29日に1年次を完了しました。ケニア事務所の臼井麻乃事務・業務調整統括と山田哲也教育・事業モニタリング担当による、事業成果の報告です。
CADVESは、マサイ族が多く居住しているケニア南東部、タンザニアとの国境沿いに広がるアンボセリ国立公園を含む、カジアド郡ロイトクトク県の30村の公立小学校30校において、子どもたちに対し質の良い教育を提供することを目的としています。地域の住民が主体的に学校運営に参加することにより、その地域が必要としている学校改善を目指しています。
対象地域では、政府の支援が十分に届いていない一方で、学校教育への関心は比較的高く、近年は、教員の直接的な雇用をはじめとしてコミュニティが学校運営に関わってきました。そうした環境では、そのコミュニティに適した形で質の高い教育を普及できる可能性があります。しかし、教育や学校運営に関する情報がはコミュニティに提供されておらず、コミュニティレベルで結果を共有して質向上につなげられるのデータが不足していました。そのため、このプロジェクトでは、現地スタッフがデータを収集し、分析した上でコミュニティに共有できる体制の整備を基礎的な活動と位置づけ実施しました。
2017年3月から5月にかけて統計用機材とソフトウェアを整備し、データ分析とコミュニティ等への指導を担当するスタッフへの研修を行いました。その後、他のスタッフも加えて、2017年12月までに4回の統計研修を実施し、基礎的なデータ分析能力の向上を図りました。現地スタッフは、技能テストで8割を超える正答率が得られるようになり、日本人スタッフの指導を受けつつ、ベースライン調査・分析に携わりました。
2017年7月、活動の対象となる30校の校長先生、学校運営委員会の委員長および地方行政官各1名の合計89名に対し、「リーダーシップ・ガバナンス研修」を実施しました。はじめに、CADVESの目的、学校を運営するための計画の作成方法や、西アフリカにおいて学校近隣の地域住民も参加して行う学校運営の事例が紹介されました。また、「障害」の概念および特別な配慮が必要な子どもたちも包括する教育(インクルーシブ教育)が紹介されました。CADVESでは6月に対象30校において調査を実施しており、学校に通っていない子ども、障害児の現状も併せて紹介しました。さらにケニアを含む東アフリカの3か国で実施された、6歳から16歳を対象にした読み書きおよび算数の学力調査や、CADVESが6月に実施した学力調査の分析結果を紹介しました。
ロイトクトク県内の多くの公立小学校では学校に通う子どもたちが増加していますが、それに対応できる適切な教員の数を確保できておらず、地域住民が資金集めて教員を雇っています。しかし、CADVESの調査の分析では、地域住民の参加が必ずしも学習(テスト結果)の改善には繋がっていないことが分かりました。この結果を踏まえて、参加者間で白熱した議論が行われ、地域住民の参加を学習の改善にどのように繋げるか考える良い機会となりました。
また、対象30校の低学年教員60名に対し、算数と公用語の教員研修を実施しました。ケニアでは、公立学校の教員は研修の機会が不足しています。研修では、算数教育を専門とする中和専門家(関東学院大学専任講師)より、低学年の生徒に数の概念の理解を促す効果的な教授法が紹介されました。またケニアの公用語は英語とスワヒリ語ですが、現在は英語教育に重点が置かれている一方、スワヒリ語教育について困難な状況を抱えていることが参加者より指摘されました。そのため、CADVESでは算数及びスワヒリ語に焦点を当てています。7月に実施した両研修ともに参加率はほぼ100パーセントに達し、参加者の研修に対する関心の高さを裏付けるものとなりました。
大統領選挙・再選挙の混乱から何度か中断を余儀なくされましたが、2018年3月までに各学校で2回以上、学校改善について話し合うコミュニティ会議が開催されました。会議では、研修を通じて共有されたベースライン調査の結果などのデータが活用されました。そして、各地域のコミュニティ会議で学校運営計画が策定され、その中に定められた活動が開始されました。
こうした会議は住民や保護者にとって初めての体験でしたが、学校が抱える課題を話し合う中で、「教員不足を補うためにお金を出し合おう」、「家畜の世話をさせられている学校に通っていない子どもを見つけたら学校に報告しよう」という声も聞かれました。ケニアには援助に頼ってしまう体質が未だ蔓延しており、CADVESのスタッフがコミュニティ会議に参加すると、「あなたたちは私たちに何をしてくれるのですか?」という住民の声が聞かれます。「学校はコミュニティのものでもある」と何度も説明を続けることで、徐々に学校に対して積極的に参加する姿勢を作り出し、地域のコミュニティによって自律した学校運営の仕組みを作っていきたいと考えています。
対象地域では、障害などの理由により、親が通わせなかったり、学校が受け入れに消極的になったりする子どもたちが多くいることが分かりました。その上、地域内の障害児などの通学していない子どもの数も把握されていない状況です。また、障害児を受け入れている小学校でも、教室があるだけで特別教育を提供する十分な環境は整えられていません。そのため、このプロジェクトでは、そうした子どもたちを取り残さずに質の高い教育が普及させることができることを目指し、そのための活動も行っています。
まず、2017年7月の研修で、30校を近隣の学校群ごとに10のグループに分け、困難な状況下にある子供たちの状況を把握するためのワーキンググループを構成しました。同時に、研修内で不就学児童について理解するワークショップを行いました。不就学児童が直面している問題の中でも障害児に焦点を当て、障害とは何か、インクルーシブな学校環境とは何かなどについて意見を交わしました。その後、グループでは、各地域の不就学児童の存在や打開策について話し合いが行われました。また、9月からは、コミュニティの協力を得て、学校ごとの不就学児童数と不就学の理由を調査しました。