2012/11/07
本企画はインターン、ボランティアを中心に立ち上がったみんなのキャリアパス実行チーム、略して「みんパス チーム」による 参加型企画です。彼らの自主性を尊重し、インタビュー対象者の選定やインタビューのまとめ方も「みんパスチーム」メンバーがそれぞれ行い、回ごとにまとめ 方が異なる場合もありますがご了承ください。また、インタビュー対象者も実名掲載の方、匿名希望の方などいらっしゃいますがこちらもご了承頂けましたら幸 いです。
本企画は2011年3月までを予定しておりますが、好評であればその後も継続できたらと考えております。「みんパスチーム」に参加したい方はぜひ事務局までお問い合わせください!
みんなのキャリアパス」第7回目となる今回は、GLMインスティチュートにて、ベトナムプロジェクトのプロジェクトマネージャーとして活躍されている西山わか奈さんです。大学卒業後から現職に至るまで、留学、フェアトレード、民間、そして大学院と、様々な経験を経られた西山さんは、「様々な立場から国際協力・開発に携わってきたこれまでの経験の一つ一つが、国際協力の現場で働く力となっている」と語ってくださいました。
今回のインタビューでは、様々な環境に挑戦し続けてきた西山さんに、その原動力と、自分の経験をつなげていくキャリア形成の在り方についてお話を伺いました。
西山 わか奈
GLMインスティチュート ベトナムプロジェクト(※1)プロジェクトマネージャー
※1:ベトナム国コンツム省において、少数民族のフードセキュリティー向上のためのプロジェクト。コンツム省のダクズワ村を中心に、安定した収入向上に繋がる傾斜地モデルの指導や豚銀行の支援などを実施。
学歴・職歴
早稲田大学人間科学部卒業
ホーチミン市社会・人文科学大学ベトナム語学科留学
フェアトレード関連会社勤務
住商フーズより、現地水産工場及び住友商事ホーチミン事務所に派遣
マンチェスター大学修了
(MSc in Economics and Management of Rural Development)
大学を卒業後のベトナム留学。フェアトレード関連会社から商社への転職。「何事も自分で見て体験しなければわからない。だから現場に飛び込んだ」と西山さんは言う。「勉強するなら実際に現地に住んで、現地の言葉を覚えて、そこで生活していくほうがいい」。「先進国や民間企業=途上国を搾取している、という現実が本当にあるのかを自分の目で確かめたい。これらの想いが西山さんの原動力となった。
留学に始まり、フェアトレード、商社、大学院、プロジェクトマネージャーと様々な立場から国際協力に関わってきた西山さん。そのキャリアを振り返ってみると、一つにつながっているように見えるが、キャリアプランの様な青写真が最初にあり、一つの目標に向かって進んできたのではないという。開発に携わる様な事をやりたい、大学院に行きたいという漠然とした想いはあったが、最初は何をしたらいいのか分からなかった。20代は手探りの状況が続き、不安もあったようだ。
「とりあえず、目の前にあるものから、自分の疑問に感じたことや、問題意識に対して動いていかないと何も変わらない」。先が見えないという不安の中でも西山さんは自分の五感=問題意識に素直になって動き続けてきた。先進国と途上国の不平等な貿易に疑問をもったのでフェアトレード関連会社行き、次は民間のビジネスが搾取を行っているという一般認識が本当なのかを確かめるために商社という新しい環境に飛び込んだ。自分が疑問に思ったことに対しては実際に行動を起こし、「目の前のものをたぐりよせて、たぐりよせて」、一つ一つ経験を積み重ねていくうちに本当にやりたかったことがだんだんと見えてきたという。自分の五感に基づく行動とその経験の積み重ねが今の西山さんの軸をつくっている。
様々な経験を積んで現職に至る西山さんに、国際協力の現場で活動するために必要な力は何かと伺うと、「コミュニケーション、人間同士の付き合いが大事」という。特に大事なことは、「相手の想いを感じること」。相手が何を考えているのか、何が必要とされているのかを考える必要があった商社時代の経験がここに活きている。国際協力というと高度な専門性などが頭に浮かぶが、その土台には人間同士の付き合いという基本ではあるが、最も重要なことが据えられている。
「市場経済が浸透していく中で、弱い立場にある人々が社会の底辺に組み込まれてしまっている」。西山さんが市場経済の影響を初めて目にしたのは、学生時代に参加したスタディツアーで、洋服を欲しくても買えない小さな子供たちが古着をもらって喜んでいる姿を、伝統的な民族衣装を着ている少数民族のおばあさんが微笑みながら佇んでいる風景を目にした時だ。市場経済の浸透が進む中で農村にも押し寄せてくるモノ。少数民族の人たちでも新しいモノを欲しがるのも自然な流れだ。しかし、どんなに欲しくても彼らの低い収入ではそれらのモノを買うことはできない。市場経済の中に組み込まれていくなかで、収入が低いという理由で選択肢を失っていく人たちの存在が問題意識として浮かんできた。そして、その様な市場経済の影響に対する問題意識をきっかけにフェアトレード関連会社を初めとして開発関連の仕事に関わるようになっていった。
数々の経験を通じてより明確になってきた問題意識は『自由の剥奪』であり、『人間の尊厳』を大切にしていきたいと思うようになった。開発援助に対する西山さんの想いは、「社会の周辺に追いやられてしまう弱い立場の人たちが自分たちで主体的に、自分の裁量権で決められる範囲=自由度を広げていくことを、現場で経済の動向を見ながら支えていきたい」というものだ。現在のプロジェクトでは、この想いを実現させるため、少数民族のフードセキュリティーの向上を目的として、安定した収入向上に繋がる傾斜地モデルの指導や豚銀行の支援などに取り組んでいる。
「自分自身の中にある問題意識・感性みたいなものを信頼して、それに忠実に進んでいけば、やがて道は開けてくる」。大学、フェアトレード、商社、大学院と様々なキャリアを積んできた西山さんは、自身の経験からキャリア形成についてその様に語る。将来を設計して逆算して行動してきたのではなく、その時々の問題意識に基づいて行動してきたため、活動をしていた最中は先が見えずに不安だったが、振り返ってみると一つ一つの経験が繋がっていたという。
「自分の感性を信じてやっていけばひとつひとつの経験がいずれ繋がってくる」ことが経験的に分かってきたため、不安はなくならないけど、以前よりも安定してきたという西山さん。しかし、その一方で「人生は過程だ」と言い、自分のやりたいことを模索し続けていく姿勢は崩さない。
開発、そして自分の人生に対する西山さんの姿勢は、自分自身の感性に基づきながら、一歩一歩地道な経験を積み重ねながら切り開いていくというキャリアのあり方を教えてくれた。「五感でいきましょう」。キャリアの鍵はひとりひとりの中にあるはずだ。
私も国際協力や開発には興味があるが、まだ具体的に何をやっていきたいのかは見えていない。そのため、「最初は何をしたらいいのか分からなかった。20代は手探りの状況が続き、不安もあった」という西山さんの言葉には共感することが多かった。
「自分自身の中にある問題意識、感性みたいなものを信頼してそれに忠実に進んで行けばやがて道は開けてくる」。西山さんの言葉は、先が見えない不安の中で何かに挑戦することを躊躇してしまう私たちに勇気を与えてくれる。私自身も、自分の問題意識や感性をもっと大切にし、いろいろな経験を積んで行く中で、これから自分のキャリアをより明確にしていきたいと思った。
最後になりましたが、西山わか奈さん。貴重なお話をありがとうございました。