目覚ましい経済成長を遂げる一方、成長の陰で経済格差の広がりが問題となっているベトナム。2007年から2011年にかけてGLMiの事業地となったダクズワ村は、急速な市場経済化の流れの中で人々の暮らしが大きく変化した地域でした。
コンツム省には、1975年の南北ベトナム統一以降に北部から移住してきたグループも合わせ、22の少数民族(省人口の半数強を占める)が暮らしています。バナ族はその中でも、古くからこの地で生活を営んできた土着の民族であり、省の名前もバナ族の言語に由来し、池(Tum)の村(Kon)という意味を表します。
ダグズワ村においても、資金力のあるキン族が土地を買い取り、高収入が見込める換金作物を植えているケースが見られました。所有する農地から十分な収入が見込めないバナ族の多くは、主食のコメを手当てすることにも窮する状況に陥り、日雇い労働をして、収入を補うようになっていました。
GLMiはベトナム国コンツム省において、少数民族の食糧自給率の改善のため4年間のプロジェクトを実施しました。コンツム省のダクズワ村を中心に、安定した収入向上に繋がる傾斜地モデルの指導・援助を行いました。
アグロフォレストリーの合原裕人専門家をコンサルタントに迎え、住民が所有する農地の地力を回復しながら、持続的に農地の生産性や生産高を向上させることを目指し、等高線に沿ってテフロシア(緑肥作物)と、現地でボイロイと呼ばれている樹木(線香の原料となる樹皮の価値が高い)を植付け、等高線の間に従来からの換金作物であるキャッサバを植える傾斜地農業モデルの普及を行いました。また、事業終了後も地域と住民が継続して活動を行える環境を整える目的で、ダクズワ村内の中学校と共同でボイロイ苗木を栽培した他、中学校の生徒を対象に、環境スクールや環境を題材にした絵画コンテストも実施しました。
当初は、手間暇掛かる等高線栽培技術の実践に躊躇する住民も多くいましたが、先に傾斜地農業モデルを実践した住民が、「土壌浸食が改善され、収穫したキャッサバのサイズが例年より大きかった」等、それぞれが実感した効果を周辺住民に伝えてくれたお陰で参加する世帯の輪が広がりました。GLMiによって普及したこの傾斜地農業モデルは、緊急課題となっている土壌侵食を改善し、森林破壊を防止するモデルとしてコンツム省農業農村開発部にも高く評価された他、コンツム市人民委員会経済室によって他村にも拡大される決定がなされました。
プロジェクトでは、各世帯の庭を活用した家庭菜園の普及と、栄養バランス講習会の開催を行いました。第3年次終了時点で107世帯が家庭菜園を実践し、栄養講習会には幼児を抱えるお母さんを中心に91名が参加して栄養バランスに関する知識と身近な食材を活用した離乳食の調理方法を学びました。家庭菜園を実践している住民からは、「収穫した野菜はスープや炒め物など様々な調理方法で食べています」との報告をもらいました。
ダクズワ村5村落の中でも、特に住民が所有する農地面積が少ない、コンツムクナム村落とコンツムクパンⅡ村落において、生計向上に繋がる活動として、豚飼育技術の普及を行いました。プロジェクトでは、ダクズワ村人民委員会女性組合と協働で、繁殖される子豚の分配方法を定めた豚銀行を村落ごとに導入して普及にあたりました。豚銀行とは、子豚を農民に貸し付け、農民がその飼育・繁殖・販売を通して収入の手段を得て生計を向上させる方法です。農民が借り受けた豚から生まれた子豚を自分、他世帯、管理組合へ分配することで、コミュニティ全体への波及効果が期待できます。村落内で最初に雌豚の分配を受けた世帯の中には、子豚の販売によって得た収入で、雨期に冠水する農地の排水整備を行った世帯もあります。プロジェクト終了後は、ダクズワ村人民委員会女性組合と、各村落で選出された管理チームのメンバーが協力して、豚銀行システムの運営を行っています。
また、販売拠点となるコンクトゥ村落の作業場の整備、リーフレットやパネルの作成も行いました。復元された天然染色技術による織物などの商品は、コンクトゥ村落の作業場を訪れる海外からの観光客にも評判が良く、参加女性たちの収入向上に繋がっています。プロジェクト終了後も現地政府の支援の元、グループメンバーは活動を継続しており、コンツム市で開催された物産展に向けて商品を計画的に生産して展示販売を行った報告が現地から入りました。
プロジェクトの活動を通して、現地政府の支援を得ながら、住民が継続して実践していく基盤を築くことができました。第3年次終了時評価の中で、現地政府関係者からプロジェクト成功の秘訣として、「現地のニーズと条件に適った品種や技術が普及された」、「関係者間でプロジェクト目標が共有され、毎月の会議で、それぞれの役割分担と期日をはっきり決めて活動に従事した」、「プロジェクトでは住民に伝えた内容を迅速に実行に移した」等の意見が述べられました。これらはどれも基本的な事項ですが、日々のプロジェクト運営で頭が一杯になってしまうと忘れがちになってしまう事項でもあります。
ダクズワ村では、従来の物資供給が中心の支援によって依存体質が住民の中に散見されるようになっていた中、プロジェクトでは、普及する技術を実際に実践する意欲のある住民に対象を絞って苗木や野菜種子などの供給を行う一方で、新しい技術に挑戦する住民へのフォローアップをきめ細かく実施しました。また、住民との日々のコミュニケーションから得られる情報やアイデアをプロジェクトに反映するように努めてきました。ダクズワ村人民委員会のナム書記長からは、「プロジェクト目標が達成されただけではなく、住民の意識が確実に変わった。」との評価をいただきました。これは、3年間活動を支えてくれた現地スタッフ2名を初め、プロジェクトに関わった全ての人の努力によって結びついた大きな質的な成果です。私自身にとっても学びの深いプロジェクトとなりました。これまで活動のご支援をいただきましたことに、この場を借りてお礼を申し上げます。「ヴォネロー(バナ語でありがとう)!」