開発援助の現場から第7回 ボツワナ:HIV/AIDS
2005/05/01
駒月新也(GLMi会員)
「開発の現場を知りたい」-現地の人々にとって開発は何であるのか、またどうあるべきなのか。それを知るには現地で人々と暮らして活動するしかないと考え、私は2002年6月から半年間、国際NGO、Humana People to Peopleがボツワナ共和国で実施しているエイズ啓発プロジェクトTCM(Total Community Mobilization)に参加しました。
ボツワナ共和国は、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国に属する人口約170万人の陸地に囲まれた国です。HIV感染率が世界的にも非常に高いサハラ砂漠以南のアフリカ諸国の中でも、ボツワナの感染率は特に高く、国家の存続が危ぶまれているほどです。この状況を鑑み、ボツワナ政府は、国際機関やローカルNGOと連携して予防や治療、教育など様々なプログラムを積極的に実施しています。ボツワナでは政府が抗HIV剤を無償で提供している他、従業員を対象に無料の治療プログラムを行う私企業もあります。パテントの問題を抱え価格が高価な抗HIV剤を使った治療を感染者に施せない他の発展途上国に比べると、非常に恵まれた状況にあると言えるのかもしれません。
私が参加したプロジェクト、TCM(Total Community Mobilization)は、ボツワナ政府とCDC(Centre for Disease Control:アメリカ疾病管理予防センター)の出資を受けて、活動を展開しています。活動の中心はDoor to Door Mobilizationと呼ばれるもので、HIV/AIDSに関する教育、カウンセリングスキルなどの訓練を受けたフィールド・オフィサー(ローカルの人々)が中心となって、家を一軒一軒まわり、個別にエイズに関する知識・情報提供を行います。私も日中は現地のスタッフと共に家を訪問して、エイズ教育を行いました。
ボツワナへ行くまでは、成人のHIV感染率が40%近いという数字から、エイズを発病した人々が道端で死んでいるような悲惨な状況を思い描いていました。しかし、現実は想像の正反対で、毎日のように人々の家をまわっていてもエイズ患者は見かけず、初めて病人に遭遇したのは3ヶ月目でした。その女性は、家族もなす術がなく、人目に付かぬよう窓もカーテンも締め切られた小さな部屋の地べたに、薄汚い毛布に包まって体を横たえていました。
感染者や患者が人々から隔離されるような状況に追い込まれるのは、HIV/AIDSに対する“スティグマ”が存在するからだとわかりました。HIV/AIDSにおけるスティグマとは、様々な社会的・文化的要因により、人々がHIV/AIDSに対して否定的な考えを持つことです。このスティグマのせいで、近隣の人にHIV感染を知られたくないという思いから、HIV/AIDS関係の活動をしている我々の訪問を拒む住民にも遭遇しました。
深刻なHIV/AIDSの流行という社会問題を解決するには、エイズ教育や予防活動、治療を行うだけでなく、人々が持つ偏見や差別を取り払い、人々がHIV感染者を受け入れるようにサポートし、コミュニティ全体でHIV/AIDSに立ち向かうことが必要だと強く感じました。