2019/07/01
2017 年3 月より実施している「カジアド郡におけるコミュニティを基盤にした持続可能な初等教育戦略のための能力開発プロジェクト」は2019 年3 月に2 年次を完了しました。ケニア事務所の広本充恵事務・業務調整統括と山田哲也教育・事業モニタリング担当による、事業成果の報告です。
対象30 校では、学力を底上げするために、放課後に補習教室を実施しています。補習は、1、2 年生の教員が担当しています。学期毎に中和専門家とシロレ専門家が作成した、理解を助けるための算数とスワヒリ語の教材を作成・配布しています。その上で、補習教室により生徒の学習時間を確保することで、学習到達度の向上を目指しています。また、補習教材には、保護者が子どもの日々の学習を確認する欄を設け、児童の理解度や進捗確認の機会を提供しています。8月の教員研修は補習授業にも反映されており、研修で学んだ遊戯活動を取り入れた算数の授業を行う学校が見られました。特に、買い物を通した足し算や引き算の練習など遊戯活動の実践が見られました。例えば、写真のように、石を使って5のまとまりを作り、数を数える方法が取り入れられました。
そして、2018 年6 月に対象30 校で、同10 月に対象10 校で算数とスワヒリ語の学力調査を行いました。10 月の調査は、成績が低い傾向のある学校に限定しており、2017 年6 月と比較して、1 年生と2 年生の両教科で学力の伸びが確認されました。特に、算数の伸びが顕著で、両学年とも20 点前後の向上が見られました。引き続き、基礎的な読み書き、計算能力の強化を図ります。
週1から2回、教育に関する情報共有を保護者の携帯電話にテキストメッセージを定期的に発信しました。登録者は約1950 名で、学力調査の結果や、家庭での学習確認や学校での会議への出席を促すメッセージを提供しました。保護者は学力調査の結果に敏感に反応する傾向にあり、グループ内で議論も行われています。また、長期休暇中勉強を継続することや、家庭での保護者の学習確認を促すメッセージも保護者から良い反応を得られました。こうした取り組みにより、保護者の学校教育に対する理解が促進されています。
各学校で学校運営計画を作成し、実施・モニタリングするために、コミュニティ会合を定期的に開催しています。2 年次は、各学期2 回計6 回を目安に開催されました。会合には、学校長、学校運営委員会委員長、PTA 会長、地方行政官及び保護者が参加し、学校運営の支援策について、議論が行われました。例えば、円滑な補習教室実施のための給食の提供や、不就学児童に対する対策が議題として取り上げられました。また、スタッフが連日学校に出向き、ガバナンスとリーダーシップ研修で改訂された学校運営計画に沿い活動が行われているか、低学年教員研修で紹介された教授法が活用されているかなど、継続的なモニタリングを行いました。その結果、565 名の保護者が補習教室を訪れる、不就学児童の19%が就学を開始するなどの成果が出ました。
2018 年7 月30 日から8 月3 日にかけて、対象30 校の校長、学校運営委員会委員長、PTA 会長、地方行政官各1名の合計110 名(参加率約92%)に対して、ガバナンスとリーダーシップ研修を実施しました。研修では、西村プロジェクトマネージャー(GLMi 理事/国際基督教大学)、川口専門家(GLMi 正会員/筑波大学)及びマサンギラ氏(GLMi Kenya 代表理事)が講師を担当しました。参加者は、1 年次と2 年次に実施した学力調査の分析結果や各学校の不就学児童の実態を基に、学校運営計画の修正案、不就学児童の就学に向けた活動計画案について議論を深めました。
教育の質の向上を目的として、8 月13 日から15日にかけて、対象30 校から2 名ずつの低学年担当教員を対象に、低学年教員研修を実施しました。算数専門家の中和専門家(関東学院大学)とスワヒリ語専門家のシロレ氏より、2 年次に実施した学力調査の結果を受け、児童がどの部分でつまずいているかを確認しました。その後、算数ではケニアの新カリキュラムに基づいた実践的な遊戯活動を取り入れた教授法の紹介、スワヒリ語では児童が困難を抱えている母音と子音の組み合わせについて詳細な説明が行われました。研修の最後には、今回の研修を受け、各学校が9 月に始まる3 学期に向けて教授法の改善案を作成しました。
事業では、質の高い教育の機会を、困難な状況下にある子どもたちにも拡大する活動も行っています。1 年次から、各学校コミュニティ単位で学校に通えていない子どもたちの調査を行っており、2 年次終了までに30 校で1140 名の不就学児童が特定され、216 名の児童(特定されたうちの19%)が就学を開始しました。30 校のうち29 校では、不就学児童の通学を可能にするための行動計画も作成されており、学校による環境整備や専門教員の確保、コミュニティによる保護者の啓発などが行われています。また、特別支援学級を運営しているイラシット小学校とエンキジャペ小学校に、特別支援学級用教室を建設しました。エンキジャペ小学校では、特別支援学級の生徒を含め、通学に困難を抱える生徒が学校に通い続けられる環境を整えるために、寮の増改築も行いました。エンキジャペ校では、障害児の児童数が29 名に、イラシット校ではリソースルームを利用する児童数が15 名になりました。
2018 年11 月3 日にイラシット小学校とエンキジャペ小学校で、特別支援学級用教室と女子寮・男子寮のオープニング・セレモニーを開催しました。在ケニア日本国大使館から高島二等書記官、ケニア教育省幼児教育・基礎教育局特別教育課からハガ課長を来賓として迎え、教員、生徒、保護者をはじめとした、多くの関係者が参加しました。